第16回読書に関する作品コンクール審査結果

ページID1006436  更新日 2022年3月29日

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特選

各部門の特選作品をご紹介します

文章部門

読書感想文

「鎧の中の13歳」

十文字中学校一年 緒方 和(おがた なごみ)

 「How Japanese is Naomi Osaka?」
これは、大坂なおみ選手に対して、ある海外記者が書いた記事のタイトルだ。直訳すると、「大坂なおみは日本人なのか」である。私はわだかまりを覚えつつ読み進めた。読み終えた後、今度は私が常に心の奥にしまっていた自分へのわだかまりが堰を切ったように吹き出した。気持ちを落ち着かせるため、あの本を手に取った。本のタイトルは、
「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー」。
筆者のブレイディみかこ氏は日本人で、アイルランド人と結婚しイギリスで生活をしている。彼女はそこで出産し、子育てをしている。成長する息子の中学生活を通して、「多様性とは何か」「多様性と調和」に関して、彼女の独特な目線で綴っている。その本は、迷える私にいつもヒントをくれるのだ。
 まず、彼女の子は人工授精で誕生している。私の「普通」に生まれるという概念では、普通に生まれていない。おまけに、国際結婚も私にとっては普通ではない。こんなに私には普通とは思えないことずくめの中、生まれた彼が私と同じ中学生活を過ごし、そこで生じる数々のトラブルを彼なりに消化し、前に進んでいく。この彼の消化のための行動や考え方が私を妙に落ち着かせてくれるのだ。
 なぜ、この本が私を落ち着かせるのに役立つかは私の生い立ちに関わる。私の家族は俗に言う「転勤族」だ。私は沖縄で生まれ、福岡、宮城、北海道と引っ越し、小学五年生で秋田に転校してきた。秋田にも約五年というタイムリミット付きだ。転校初日は、校長室への登校。各先生へのあいさつ、学校での諸注意を聞き、最後はクラスでの自己紹介というのが一通りの儀式だ。数日間はまだまだよそ者である私は、この後の学校生活を左右するのは第一印象だと知っている為、気が抜けない。「協調」という鎧を身にまとうのである。上手く溶け込むこと。その学校の暗黙のルールを身に付けること。自分のポジションをそのクラスの中に上手につくることに心血を注ぐのだ。彼のイギリスの学校のように、移民問題、階級社会、民族問題といった複雑でデリケートな問題こそないが、だからこそ日本の学校において、私のような転校生は異種で特殊な存在なのだ。しかし私は、どの土地でもみんなと同じになるために必死で、これまで上手に乗り切ってきた。彼は父のようなイギリス人でもなく、母のような日本人でもない。私は沖縄県民とも言えず、秋田県民とも言えず。故郷がどこなのか分からない同士、というのが彼と私の共通点だ。
 ブレイディみかこ氏が息子を連れ日本に帰省したときのことだ。外食中、近くに座った日本人が「youは何しに日本へ」としつこく聞いてくるというでき事があった。両親は悪意を感じ、息子に日本語に訳して伝えることができなかった。しかし息子は、あの方は自分のことが嫌いなんだと感じ取っていた。そして彼は、日本では「ガイジン」と呼ばれ、イギリスでは「チンク」と呼ばれる状況に、「僕はどっちにも属さない。だから、僕の方でもどこかに属している気持ちになれない。」と言ったのだ。みかこ氏は自分の帰属すべき日本に、最愛の息子が受け入れられないという事実を思い知ったのだ。彼女は息子の学校でたった二人の東洋系の生徒が生徒会長になったとき、胸のすく思いになったのだが、彼にはこういった気持ちも存在しないということも知ったのだ。私にすれば「普通」の範囲にいなかったみかこ氏の息子は、みかこ氏の「普通」の型にも当てはまらなかった。彼は、彼の「普通」を探し始めていたのだ。
 私の両親は九州出身で、ラーメンといえば豚骨だ。私も幼い頃から豚骨が一番だと言ってきたし、両親もそんな私を当然と思っていた。しかし実のところ、私は味噌ラーメンが大好きなのだ。九州で生まれたものの、私自身は北日本での生活の方が長い。たかがラーメンだが、食に関する家庭ならではの「普通」というのは、なかなか壊しにくいのだ。家族で一人だけ、北日本の生活が人生の中で一番長くなってきた私は、両親の「普通」の型から外れてしまう気がして、なかなか言い出せなかった。しかし、つい最近そのことを告白した。それ以来両親は私に好みを聞いてくれる。だれかの「普通」から外れてしまうことが怖かった私だが、勇気を出して話したことで、すっきりした気持ちになった。小さな事かもしれないが、私にとっては大きな一歩だった。
 みかこ氏は「普通」を探し始めた息子をこれからも変わっていくだろう、と書いていた。それなら、私だって変われるはずだ。学校ごとに鎧をまとって、そこの「普通」になろうとするのではなく、私のままでいいではないか。自分を殺したり同化することだけを考えたりしなくてよいのだ。鎧を脱いだ私の心は以前より身軽だ。さあ、私らしく、前へ。
 

『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』ブレイディみかこ/著〔新潮社2021年ISBN978-4-10-101752-5〕

作品選評

 「How Japanese is Naomi Osaka ? 」という印象的な書き出しから始まる、文章部門の特選に選出された十文字中学校一年生、緒方和さんの読書感想文「鎧の中の13歳」は、本と自分自身の対話が文章によく表れた読み応えのある大変興味深い作品でした。奇しくもオリンピック、パラリンピックが行われた今年、そしてコロナ禍のこの世界の状況の中で、無意識に同調性を求めてしまう私たちに「多様性とは何か」や「多様性と調和」について深く考えるきっかけを与えてくれました。そして同時に、この作品の中における「多様性」とは対義の関係にある「普通」についても考えさせられました。
 緒方さんの感想文の秀逸な点は、中学一年生とは思えないほどの語彙の豊富さや比喩表現の巧みさです。前述した「多様性」と「普通」についての深い考察はもちろん、転校してすぐの描写にある「『協調』という鎧を身にまとう」自身の様子。「だれかの『普通』から外れてしまうことが怖かった私」が大きな一歩を踏み出す場面の心に残るエピソード。そして「学校ごとに鎧をまとって」いた緒方さんが、自分のまま自分らしく未来を歩もうと決意する「鎧を脱いだ私の心は身軽」「さあ、私らしく、前へ」という言葉。これらの豊かな表現が、本の筆者の息子に起きたでき事と自分自身の経験とを重ね、自分を見つめることで生み出され、しかもそのすべてが読む人を納得させ、そして読書感想文に引き込まれつつ、なんだか応援したくなるような思いにさせてくれるのです。
 きっと緒方さんは普段からたくさん本を読んでいる生徒さんなのでしょう。豊かな読書の経験が、表出される豊かな言葉に繋がっているのだと確信させられました。今後、緒方さんが自分らしさを存分に発揮し、校内はもちろん、横手市の中学生全体に新しい風を吹かせてくれることを期待しています。


短文部門

わらっちゃう おなじところで おおわらい

増田小学校一年 小原 悠慎(おばら ゆうま)

作品選評

 1年生のおばらゆうまさんは、「誰と、どんな本を、いつ、どこで読んでいるのだろう」と想像しました。ゆうまさんのさまざまな様子を想像していたら、自分も楽しくなりました。
 1年生の教室で、担任の先生やボランティアの方が絵本の読み聞かせをしている様子が見えました。みんな、前のめりになって聞き入っています。いつもにぎやかな教室が、集中力でシーンと静まりかえっています。読み聞かせの声だけが教室に響き渡っています。ふと、ページがめくられると、主人公の滑稽な様子があらわになって、ゆうまさんは思わず大声を出して笑ってしまいました。周りの友達も一斉に同じ場面で笑い出しました。あまりにタイミングが一緒だったものですから、その様子にまた、顔を見合わせてみんなで大笑いしています。読み聞かせている先生やボランティアの方も、「作戦成功」と、嬉しくて笑っています。
 また、別の様子も見えてきました。ゆうまさんには、お気に入りの1冊があります。特別な1冊です。この日もお気に入りの本を読んでいます。それは、大好きな場面があるからです。あらすじも、セリフも全部頭に入っているけれど、いつもこの場面で大笑いしてしまいます。家でも大笑い、教室でも大笑いしているゆうまさんの姿を想像していると、こちらまで笑みがこぼれ、おなかがポカポカしてきます。自分にとって特別な本は何だろう。「どうしてその本が特別なのか、どんな感じ方をするのか」という問いの答えに、その人らしさが表れていると思います。
 本を読むことは、何と豊かなことでしょう。1年生のおばらゆうまさんから、このことを教えられた特別な日でした。


絵画部門

絵:幸せみつけた

幸せみつけた

雄物川小学校六年 塩田 莉菜(しおた まりな)

『おやゆびひめ』アンデルセン/原作 舟崎克彦/文 永田萠/絵〔小学館〕

作品選評

 やっとたどり着いた「おやゆびひめ」の幸せが、絵の中にキラキラと輝いていて、目を奪われました。幸せのイメージを表現するために、色合い、デザイン、遠近感を工夫した構図など多様性のある造形力を感じました。特にツバメの翼や羽のコラージュの素材が印象的です。本の世界を創造しながら、自分だけの表現を丁寧に楽しんでいるのが素晴らしかったです




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